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梓会出版文化賞の受賞の挨拶
亜紀書房代表取締役 立川勝得
亜紀書房は第27回、梓会出版文化賞特別賞を受賞しました。授賞式での社長の挨拶を掲載いたします。これからも読みごたえがあり、多くの人に手にとってもらえるような出版をめざします。
亜紀書房の立川です。本日はありがとうございます。どういう話をしようか、ちょっと考えながらこの会に伺いました。
今日は出版社の経営者の方も多いと思いますが、皆さんはどんなふうに出版社を経営なさっていますか。私の場合はスタッフを信頼して、お金を用意して、あとは任せる、じっと我慢しているということです。たくさん口も手も出したくなることはあるのですが、とにかくスタッフを信頼して我慢をする。
そういうことですので、今日の受賞のご挨拶は、「自分を褒めたいと思います」で終わってしまうのですが、そういうわけにもいきませんので亜紀書房の紹介を少しさせていただきます。
先ほど斎藤美奈子先生から、選考のことばの中でご説明いただきましたけれども、亜紀書房は1967年創業で私は2代目です。創業の経営者棗田金治が言った「アジアの時代が来る。アジアの世紀が来る。その時代と世紀を引っ張っていく本を出すんだ」というのが亜紀書房の名の由来であり、そのスタートです。
時代は1960年代の後半ですから大学も世の中も激しく動いておりました。選考のことばにある『公害原論』。当時東大の工学部に宇井純という反骨の助手がおりまして、そこで私自身も自主講座『公害原論』の実行委員として活動し、宇井の鞄持ちをしていた縁もあって棗田と出会い、今日亜紀書房をこういう形で経営することになりました。
会社全体が、あるいは私自身がそもそも性善説なものですから、実はたくさんだまされたりもしているのですが、だからといって基本の考えが変わるわけではなく、話せば分かるし、しっかりとものは伝わる、と思いながら出版をずっと続けております。
今回お目に留まりました『災害ユートピア』は亜紀書房の中でよい翻訳書を出そうと思ってずっと取り組んでまいりました6冊、7冊の中の1冊です。本当に人が好きで、人がたくさん集まっている世の中に関心がいっぱいある私としては、最初にゲラを読んで、この本を世に出そうと決意する瞬間というのはとても幸せでした。そう多く売れるとは思わず出版した本でしたけれども、読者の方たちにしっかりと伝わっていき、3.11という大きな出来事を経て、多くの方々に読んでいただきました。
現実にそこで苦労なさっている方たちにこの本が少しでもお役に立てば、と願いながら去年はずっと売ってまいりました。こういうときに出版社をやっていてよかったなと思う瞬間があって、やっぱり自分を褒めたいと思います(笑)。
最後になりましたけれども、亜紀書房のこの本を選んでいただきました選考委員の皆さまに感謝を申し上げ、またこうして集まって祝ってくださる先輩の皆さまに感謝申し上げて私の挨拶に代えたいと思います。ありがとうございます。